水中写真を楽しむためのコラム 写真家 粕谷 徹
水中写真はRAWで撮らなきゃもったいない!
突き詰めると水中写真も陸上の写真も大切なことは同じなのですが、水中写真ならではの難しさがあります。そんなところをなるべく分かりやすく書くことで潜ることの楽しさ、写真の面白さを伝えられればと思います。
写真を撮っていると、肉眼で見ている色とカメラのモニターやプレビュー画面の色に大きく差があることがあります。
PCやスマホで撮った写真を見返して「こんな色じゃなかった!」と嘆いたことが誰でもあるのではないでしょうか。原因のひとつはカメラのホワイトバランス。
ホワイトバランス
ホワイトバランス(WB)とは撮る環境に応じて色温度(青⇔黄)を調整する機能です。通常はオートホワイトバランス(AWB)にしている方がほとんどだと思います。AWBはシーンに応じて「たぶんこのくらいの色合いがちょうど良いだろう」とカメラが判定して表示させています。陸上ではカメラの性能向上もあり、大きな色ズレはしなくなってきましたが、水中はあまりデータが入っていないのか、見た目に近いWBになることが少ないのです。
また、人の目は環境に応じて色慣れすることが研究で明らかになっていて、水中では青被りに慣れてしまい、自然な色合いに感じる事が多いのです。しかしカメラは機械なので、環境慣れすることがありません。赤や黄色が目では綺麗に見えていても、写真を撮ると全部青く写る。なんて事はこのWBが原因になっていることがほとんどです。
見た目とカメラの色を合わせるにはWBを「晴天」「曇り」「日陰」「蛍光灯」「電球」などのモードに合わせるか、マニュアルで色温度(5000kなど)を数値で調整する方法があります。さらに細かい色合わせは「グリーン⇔マゼンダ」と合わせて座標上で調整する方法があります。
もう一つ、白いフィンやスレートの白い部分を画面いっぱいに撮影して、その白を基準に調整する「マニュアルホワイトバランス」(メーカーによって呼び名が変わります)という方法もあります。
※きちんと色合わせする場合はグレーカードなどWBを基準にあわせるボードを使います
これらの方法で肉眼で見ている状態と写真の色を合わせると「こんな色じゃなかった!」が改善されます。しかし、めんどうなことに水深や潮目が変わる毎に調整する必要があります。
TG-6の取扱説明書(P53)
WB調整のやり方は知っているけど、面倒くさいのでAWBのまま撮ってる。という人も少なくないと思います。ボタン一つで簡単に調整できればシーン毎に変更しても良いですが、ボタンを幾つも押してあれこれ操作するとなると時間が掛かりますね。
潜水時間、エアー残圧、無限圧潜水時間(NDL=あとその水深にどれくらいいても大丈夫か)
陸上で三脚を立て風景などを撮る場合は、時間や天候に合わせてWBを細かく調整しても良いでしょう。しかし、陸上写真と水中写真の大きな違いは時間の制約です。通常のファンダイビングならば60分前後が一般的ですね。エントリー、エキジット、安全停止の時間を引くと水中で活動できる時間は45分~50分程度でしょうか。さらに被写体と向き合える時間はガイドダイブでも移動時間を考えると30分ほどになってしまうのではないでしょうか。深度が増すとNDLも減ってしまうため、深場の被写体と向き合えるのは僅か数分ですね。
しかも、水中ハウジングに入ったカメラは直にボタンを押す時と違い、操作し辛かったり操作方法が違っていたりします。更に厚いウインターグローブなどをはめていると、そもそもボタンが押せなかったり・・・
水中でやることを絞り込む
そんな短時間で構図やピント、被写体のポーズなどシャッターチャンスをモノにしなければならない訳ですから、やること考える事がたくさんあります。
PCなどに写真データを取り込んでから出来る作業は、色合いや明るさ調整など。構図やピントの調整、シャッターチャンスは撮影後に調整・変更することができません。
後述しますが、逆にそれ以外は後で調整することが出来るので、カメラまかせにすれば良いわけです。そこで、何に作業を集中するか絞り込んでみましょう。
水中でやること
- 構図を考える
- ストロボやライトの角度や位置、明るさを調整する
- シャッターチャンスを逃さない
- ピントを合わせる
細かいことはもっとありますが(笑)、大ざっぱにこんなところでしょうか。
上記以外の事。WBや露出(写真の明るさ)、シャープネスなどは後からPCなどで調整することが出来ます。
カメラに任せられるものはどんどん任せる。後で調整できるものは後回しにするのが水中で時間を無駄にせず写真を撮るポイントです。
記録方式 JPEGとRAW
写真の記録にはJPEGとRAWという方法があります。(RAWで記録できないカメラもあります)
【JPEG】1677万色
メリット
- データ容量がRAWに比べ小さく、たくさん撮れる
- スマホやPCなどで直ぐ見ることが出来る
- 連射する場合1回の書込み枚数が多い
デメリット
- 撮影後にアプリなどで調整する場合、調整範囲が狭い
- 白飛びや黒つぶれに対して許容量が狭くなる
- 高感度で撮影したときにノイズが残りやすい
【RAW】4兆3980億色(14bit)
メリット
- 後からアプリやカメラの編集機能でWBや明るさなど細かく調整出来る
デメリット
- データ量が多く重い。JPEGに比べ撮影枚数が減る
- カメラメーカーのアプリや写真編集アプリが必要
- 直ぐにスマホやPCで見ることが出来ない
- 開くアプリによって色合いや明るさが違う
【JPEG】1677万色 <【RAW】4兆3980億色
表現できる色の諧調(段階的な色の明るさ)は圧倒的にRAWの勝ちですが、PCなどで表示できる諧調は1677万色です。更に人の目が判別できる色調はおおよそ1000万色といわれています。
それならJPEGで撮れば十分じゃん!イメージどおり撮れる場合はJPEGで良いのです。
しかし、WBなど撮影時に調整が必要な場合はRAWが良いのです。
RAWの場合見えている画像のデータは氷山の一角。表示画面の下には膨大なデータが隠れています。PCなどで隠れた膨大なデータを利用して色合いや明るさを調整すれば、潜ったときに見えていた色合いが再現されます。
カメラを買うと無料で使えるメーカー純正のソフト
- OM SYSTEM(オリンパス) OM Workspace
- キヤノン DPP(Digital Photo Professional)
- ニコン Capture NX-D
- ソニー Imaging Edge Desktop
- パナソニック SILKYPIX Developer Studio SE
そのほか、LightroomやSILKYPIXのPRO版、Luminar、DxO PhotoLabなどサブスク、買取型などがあります。
最初は使用するカメラに付属する純正ソフトを使うのが無難でオススメです。
僕はキヤノンユーザーなので、初めはDPPを使っていましたが、より高度な現像をしたくていろいろなソフトを試しました。今は現像と撮影した写真データ管理が一括で出来るLightroom/Photoshopに落ち着いています。
さて、写真の色合いや明るさを調整出来るようになると困るのが「正解はどこ?」というところ。次回はその辺りについて書いてみようと思います。